はじめての高所登山〜考察を交えて

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未だ経験したことのなかった高所登山。
本当はいつも通り自分たちの力だけでやりたいが、高所登山となるとそうもいっていられない。6000mでも最低20日の程度の休みが必要だし、日数が短い程成功確立も低くなる。



国際山岳認定医として高所登山についても当然課目がある。高所生理学に関する論文もいくつか読んでいる。しかし、実際に高所を経験したこともないのに何を語れるのか?それにいつか8000mを登る為にはまず6000mを経験する必要がある。私たちは最初、なりふり構わず公募隊での高所登山を考えた。



色々調べてみると、南米エクアドルに世界一短い日数で登れる6000m峰があるらしい。
公募隊を調べるとだいたい12日間で日程が組まれている。これなら通常1週間+前後の土日しか長期休暇を貰えない自分たちにも、かなり現実的な数字である。
よし、善は急げだ。チンボラソに登ろう。なるべく早く決行しよう、そんな風に思っていた矢先。
ラッキーにもGWに合わせてなんとか11日間の休暇をとることに成功した。職場の理解と、それから普段からの真面目な勤務態度の賜物だと自負したい。
何はともあれ、やっと未知の世界だった高所を経験するというファーストステップを踏み出せることになった。



しかし、改めてチンボラソの公募隊の日程表を見てみる。ヒマラヤのようなキャラバンを必要とする登山ではないし、上部キャンプも設営しない。この内容なら自分たちだけで可能なのではないか。見れば見るほど、他のクライアントと一緒に管理されながら行動して悶々とした日々を送る自分たちの姿が想像出来る。やっぱりこういうのは違う。私たちの今までのスタイルと余りにかけ離れている。金額もかなりのものだ。考え直して、公募隊を利用するのはやめた。



その後、チンボラソが国立公園でガイド登山を基本としている事や、軍の関係などで地形図が手に入らないこと、治安と車での移動の件などでまた考え直さねばならなくなる。最終的に、現地ツアーを利用してチンボラソに登ったばかりだという方と知人の結婚式で偶然知り合い、同じ現地ツアーを利用する事にした。



現地ツアーにお願いしたのは、空港−ホテル間の送迎、宿の確保、登山ガイドの確保だ。予算や日数から計画が組まれ、私たちは以下のような予定でチンボラソを目指す事となった。



1日目(深夜):Quito(エクアドルの首都)着 (2800m泊)
2日目:Quitoでフリー            (2800m泊)
3日目:Quitoでフリー            (2800m泊)
4日目:順応登山1 パソチョア(4199m)登頂 (3200m泊)
5日目:順応登山2 北イリニサ(5116m)登頂 (3200m泊)
6日目:休養日                (3200m泊)
7日目:チンボラソベース小屋入り        (4800m泊)
8日目:チンボラソ(6267m)登頂       (2800m泊)
9〜11日目:帰国



ここで、高所登山のセオリーを考えてみる。



1.Climb high, Sleep low

宿泊高度を一気に500m以上上げない。やむを得ない場合はいきなり宿泊せずに2〜3回登降を繰り返してから宿泊、それも出来ない場合は宿泊地より100〜200m高いところまで登ってから、降りて泊まる。

2.高所衰退

人は高所に順応出来る反面、そこに滞在することによって生体機能が低下する。この生体機能の低下を高所衰退という。一般に高度5500m以上では高所衰退の進行速度が高所順応のそれを上回ると言われている。このため、5500mに順応したら一気に頂上を目指すか、一旦低い所におりて休養する必要がある。



また今回、私たちは実験的にSpO2(動脈血酸素飽和度)計測装置(以下Satモニター)を持って行き色々な高度や状況で計測してみました。全体を通してペコマがやや低め、またそれを反映するかのように高度障害も出ていました。

※SpO2の正常値:95%以上。平地で90%をきるようだとやばい。



ここで、一応概念として言われている高山病の定義を示します。



急性高山病(Acute Mountain Sickness:AMS)とは・・

低酸素環境に晒されて6〜9時間たつと誰でも発症する。症状は、

頭痛が必ず起こり、それに加え以下のうち2〜3項目が見られればAMSと診断出来る。

・食欲低下、吐き気、嘔吐(消化器系の症状)

・疲労、倦怠感

・不眠

・動悸

・軽い労作時の息切れ

・手足、顔のむくみ


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今回、私に限って言うと、まず出国1週間前に富士山の2800m地点で1泊し、SpO2:95以上、つまり順応していました。ただこの効果がどのくらい維持されるのかは個人差もあり分かっていません。Quitoに到着後、初日、二日目はホテルの階段を上がると平地では感じないような息切れがありましたがAMSの症状はとくに出ませんでした。



順応登山でも、ガイドについて普段ではありえないくらいゆっくり歩いたこと、また呼吸に意識したこともあり何も起きませんでした。
SpO2という観点からも見てみると、2つめの順応登山の山頂5116m地点で数値は87%程度。この数字をどう捉えるかは色々だと思いますが、私が思うに問題無い、なかなかの数値だと思います。少なくとも重篤なAMSを引き起こす値ではない。
ちなみに、医療関係者だったら一度はSatモニターつけて息止め遊びとかやったことあるかと思いますが、90%以下まで我慢できない方が多いと思います。でも高所では低酸素にはなるけれど二酸化炭素(苦しいと感じる原因)濃度が上がらないため、本当に気付かないうちにSpO2が下がります。つまり高所では低酸素症が気付かないうちに進行するのです。



ここで、上に書いた事を踏まえ補足説明です。低酸素状態を回避するために通常身体は様々な反応(応答)をします。その一つが換気応答。2500mを越えると無意識にはじまりますが、ある程度の高度を越えたら意識的にもやらないと追いつきません。SpO2を上げる換気法は実地で練習したり低酸素室で訓練したりして習得しますが、コツは換気量を上げる(やりすぎると過呼吸になる)こととPEEP(呼気終末陽圧)をかけること。具体的には1回に吸う空気の量を多くし、吐く時に口をすぼめて圧をかけます。
ただ、眠ってしまうとこの意識的な呼吸が出来ない。そのため"宿泊"というのがキーワードになり、寝る高度を一気に上げるとAMSになりやすいとされているのです。



さて。結論からいうと、チンボラソではAMSの症状が出ました。具体的にどんなだったか振り返ってみます。


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まず、4800mの高度の宿泊地となったカレル小屋。

ここでは前々日に5100m程度まで登っているとはいえ、宿泊地の高度はいきなり1600mも上がっています。症状は出ませんでしたが、やっぱり酸素の薄さは感じ、呼吸には気をつけました。また、夕方18時に寝て22時に起床だったのですがその4時間のうちほとんど寝付けず、結局合計で2時間も寝ていないのではないでしょうか。かえってそのせいで換気が落ちず、SpO2が保たれた可能性があります。



そして登山中。
ゆっくり歩いたこともあり、症状は出ませんでした。ただ、今思うと寝不足のせいだと思いますが、5500m付近から、歩きながら寝ていた気がします。うつらうつらとしていた時はやはり換気が落ちていた自覚もありました。しかし、山中ではその"うつらうつら"が低酸素症のせいなんじゃないかと不安になってしまいました。
そして不思議なことに、人が順応できず長居は無用とされる5500m overの世界に突入しても、全く息苦しさ、空気の薄さを感じませんでした。途中うつらうつらして換気が落ちているのに、です。これには更に不安を感じました。これこそ、本当はSpO2が下がっているのにそれを感知できない、低酸素脳症の症状なのではないか?と。そこで、意識的に換気量を多くしはじめました。



実際、私たちは順応登山で5166mまでしか行っていません。5500mには順応していないのです。現にペコマは登山中に頭痛や息苦しさといったAMSの症状が出現しています。



そして山頂直下。雪の状態が悪くなり、膝下ラッセルが続きました。ガイドがトップを行ってくれましたが、2人目、3人目もずぶずぶ埋まるような雪質でした。私はここで遅々として進まない状況に耐えられず少しペースを上げてしまいます。それに伴い、まだ息苦しくないことに不安が強くなりさらに換気量を多くしました。



その結果、山頂まであと20分程というところで急に喉がきゅっとしまり息が吸えなくなりました。声も出ません。そして今にもブラックアウトしそうです。雪が柔らかいとはいえ、数百メートルにわたって延々40度ほどの傾斜の雪渓が続いています。今ここで意識を失ったらどうなるかな、と本気で考えました。これ以上進まない方がいいのでは・・とまで。



結局これも、今思えば低酸素症というよりは過換気にしすぎたせいだったのだと思います。もしかしたら空気の薄さを感じなかったのは異常ではなく、本当にそこまで低酸素になっていなかっただけかも知れません。ガイドのホセに励まされ、とにかく呼吸を整え、チョコを食べ、むせないよう少しずつ水を飲み、ちょっと休憩したら歩ける様になりました。ただ、ここから先は本当にゆっくりゆっくり雪を踏み固め、進みました。



山頂6267mでのSpO2はなんと98%!自分がいかに過換気にしすぎていたか実感しました。びびりすぎでしたが、経験が浅い故仕方なかったかなとも思います。


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結局頭痛は下山中、5700m位から出始めたと思います。過換気によるアルカローシスのせいもあってか、吐き気もひどかったです。AMSは症候群であり、単に低酸素症だけで起こるものではありません。低酸素症と表裏一体の過換気、脱水、疲労やエネルギー不足等様々な要因が複雑に絡み合って発症するものです。そして必発である頭痛の原因もはっきりとは分かっていません。私の下山中に起きた症状も、ほぼ8割方AMSでよいと思いますが断定はできません。


結局登山日は23時ころ歩き始め、翌午前8時頃登頂、11時過ぎに小屋着と、標高差1467mの行動時間12時間でした。帰りの車のなかで4時間弱泥の様に眠ったら夕方には肉を喰えるまでに回復しました。



ここで、某公募隊の日程と私たちの日程をグラフにして比較してみます。



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青が某公募隊、赤が私たちの今回の日程です。青に比べると、赤の順応計画がお粗末なことが一目で分かります。

例えば、はじめの2日Quitoに滞在したあと青では4800mまで高度を上げてから3800mに宿泊。その後4800mに宿泊してコトパクシ(5987m)に登り、Quitoと同じくらいの高度まで下がってしっかり休養しています。これに対し赤では、Quitoに3日滞在したあと2度の順応登山では5100mまでしか高度を上げられておらず、更に宿泊地の高度は3200mまでしか下げていません。また、順応といっても1度行けば完了できるわけではないのです。青では2度5000m overを経験しているのに対し赤では1度、しかも5000mちょいまでしか行けていません。更に今回は5000mのウィンパー小屋が改装中であり、それより200m下の小屋がベースとなったので、アタック日の高低差、行動時間が長くなってしまいました。

(ちなみに横軸11のところ、青でウィンパー小屋上部まで往復しているところで赤も少し上昇しているのは、本来休養日だった日に乗馬をやって3700m程度まで上がったためです。乗馬も思いがけずガチになってしまいチンボラソアタック日まで筋肉痛を残してしまいました)




というわけで、色々反省点は多かった今回の登山ですが、結果オーライ、次につながるいい旅となりました。また、きちんと順応すればより高所へ行く事や、高所でより困難なクライミングをすることなどは問題無く出来るのではないか、と感じました。また、人より体力があれば、順応期間中の休養日などを減らせる可能性もあり、人によっては日程を短くする事も可能なのではないかと思いました。標高差が1400mといっても、それが標高1000mから2400mまでの登山なら何ともないはず。つまりきちんと順応出来るかに全てがかかっているわけですよね。自分はとくべつ高所に強いとも思いませんが、弱いこともなさそうだな、と、少し自信がついた8日間でもありました。



それにしてもエクアドルはとても良いところでした。人も親切でご飯も美味しいし、山も沢山あって綺麗なところでした。山友達もできたし近いうちにリピートしそうな予感がします。また、登山からは話が逸れるのですが、生のスペイン語に触れスペイン語も好きになりました。英語以外で「話せる様になりたい!」と積極的に思ったのはスペイン語がはじめてかもしれません。エクアドルのみならず南米はまた必ず行くと思うので、英語と平行してスペイン語も頑張ってみようかなと思う今日この頃でした。


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総じて本当に収穫の多い良い旅になりました。これを糧にまた一歩前へ進みます!
           

Tag:アルパインクライミング  Trackback:0 comment:2 

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# 2015.10.10 Sat00:48
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# 2016.07.28 Thu09:06
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chippe

Author:chippe
chippeのブログへようこそ!
2006.10 山歩きをはじめる。
2007.9 クライミングをはじめる。
山岳同人「青鬼」所属のゆるふわクライマー。

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